高校生による白神山地縦走の記録

陸奥黒崎~白神岳~県境~大鉢流山 
平成10年3月28日~31日 三泊四日 
能代高校山岳部 


 
朝日に照らされた白神岳(左)と向白神岳 



※平成10年4月11日・12日付 北羽新報掲載より

 白神岳~大鉢流山
初春の白神山地を縦走 
-能代高山岳部春山合宿の記録- 



 


 ~はじめに~

 私たち能代高校山岳部は、春山合宿に白神山地の縦走を行いました。コースは世界遺産の立ち入り禁止区域を避け、陸奥黒崎からマテ山コースで白神岳に登り、そこから南下して県境に達し、西に進路をとって大鉢流山から海岸線までとしました。男子13人、女子5人、顧問の先生2人の20人が参加、3月28日から三泊四日で踏破することができました。
 予想以上の雪不足によるやぶこぎやぬれ雪に苦労しましたが、幸いにも好天に恵まれ、美しい白神山地を満喫することができました。その山行記録を紹介します。

 ~行動記録~

3月28日(土)
 朝、空に層雲が広がり、不安に思いながら午前8時30分に学校を出発。卒業した先輩が見送ってくれたのがうれしい。電車と自家用車に分乗し陸奥黒崎に向かう。めざす白神山地がかすかにかすんで見える。思ったより雪が少なく、登山口まで車が入れた。ここで早めの昼食。その間に一般の登山者がたった一人で登っていく。駐車場にはもう一台の車が駐車している。
 11時23分にザックを背負い出発。20kg以上のザックが肩に食い込む。登山道にはほとんど雪がない。黄色い福寿草が咲いている。このコースを3年生は一年前にコース整備で入ったので知っているが、2年生は初めてである。
 12時、二又コース分岐。気温8度だが、非常に暑くTシャツになる者もいる。ここから先も登山道には雪はなく歩きやすい。途中で下山してきた一般登山者に会う。12時50分、このコース最後の水場に到着。例年この時期は雪の下で水はくめないそうだが、今年は難なく汲める。
 水を補給してきつい登りに入る。ここから雪が積もっており、ワカンをつける。予定ではマテ山下部に幕営の予定であったが、時間に余裕があるのでさらに上をめざす。マテ山の尾根へは夏道からはずれて冬道と呼ばれている直登のコースをとる。かすかに雪上に踏み跡があり、迷うことはない。
 130mの直登はきつい。やっとの思いで尾根上にたどり着き、さらに上をめざす。湿った雪が重い。周囲がガスで包まれることが多くなり、南西の風も強くなってきた。気温も3度と下がってきており、非常に寒く感じる。3時30分、977mの標高点に到着。今日はここに幕営することにする。
 尾根からはずれた平坦地に急いでテントを張り、夕食を作る。焼き肉がおいしい。雪を溶かして水を作り、明日に備えて8時にはシュラフに入る。テントのフライにポツポツと雨音。明日の晴天を願いながら眠りにつく。

3月29日(日)
 午前4時、目覚める。しかし、みんな寒さのために動こうとしない。結局、起き出したのはその30分後。朝食を食べ終え、パッキング(ザックに荷物を入れる)、テントを撤収して出発の準備に取りかかる。天気は晴れ、気温0度。準備運動をして、7時15分出発。雪面は硬く歩きやすい。
 しばらくしてブナ林が消え、十二湖コースの稜線への200mのきつい登りに入る。雪面が硬く凍りつき登りにくい。ワカンを脱ぎ、滑落しないように慎重に登る。稜線に登り着いた男子部員が女子のザックを背負ってやり、全員稜線にたどり着く。向白神岳の稜線が美しく見えるが、岩木山などはガスで見えない。山頂の避難小屋に8時5分到着。気温1度。巻積雲で西の風が強い。避難小屋に一人宿泊している。小屋の隣に真新しいトイレがある。
 東側斜面でピッケルの使い方、ザイルの使い方などの講習を顧問の先生から受ける。ピッケルによる滑落停止は慣れないこともあり、うまくできない者が多い。また、雪渓を安全に登るキックステップの方法なども学ぶ。講習を終え、山頂に登る。ガスの合間から見える景色は何とも美しく、北アルプスに勝るとも劣らないものだ。ここから県境をめざして250m一気に下ることになる。せっかく登ったので、もったいないような気がする。
 ガスで視界があまりよくないので、コンパスと地図を頼りに進む。急斜面で危険なので、西側に回り込むようにして下る。1000m付近からブナ林に入る。ブナ林では風も弱くなり、ホッとさせられる。左右に素晴らしいブナ林が広がっている。
 11時、804mの標高点で昼食。ここから見る白神岳は雄大で圧倒されるような迫力がある。気温10度と比較的暖かく、雲量が減ってきた。湿った雪が重く歩きにくい。また、登山靴の中がぐっしょりぬれて不快だ。この付近は地形が複雑でコースを見つけるのがむずかしい。
 3時35分、県境手前の886.7m三角点付近に幕営。気温7度。テントを張り、すぐにぬれた衣類を乾かしにかかり、そして夕食のカレー。就寝の8時にはだいぶ風が強くなり、フライの揺れる音がうるさい。ここで体調を崩すと戻るにも先に進むも二日間かかるので、そんな部員が出ないことを願いながら眠る。

3月30日(月)
 午前4時起床。朝食はピラフと水ギョウザ。天気は晴れ。テントを撤収しパッキングを終え、先生が呼ぶ方へ行ったら白神岳、向白神岳が朝日に照らされて輝いており、思わず歓声が上がる。山を登るようになって2年が過ぎようとしているが、あんなに美しい景色を見たのは初めてだった。白神岳から大きな感動を与えられたような気がする。
 記念撮影をして7時19分出発。気温0度。ぬれた登山靴が乾かず、とても不快だ。方角を間違えて違う尾根に下りそうになったが、先生の忠告で正しい尾根に戻る。この辺のブナは幹にコケが生えて黒っぽくとても美しい。県境の861mにたどり着く。ここからはやせ尾根で雪庇が張り出しており、慎重に進む。アップダウンが多く、雪が重いこともあり、なかなか距離を稼ぐことができない。また、雪が消えてやぶが出ているところもあり、歩きにくい。
 11時31分、698mの標高点付近で昼食。ここは入良川を半周回り込むように稜線が走っており、すぐ近くに向かいの尾根が見えるが、そこに達するまでの距離は非常に長く恨めしい。周辺は植林された杉がまだ小さく、はげ山になっている。東側の真瀬川の向こうに真瀬岳、二ツ森、泊岳、青秋林道が見える。
 午後3時15分、650mの標高点を過ぎたあたりに幕営。予定よりかなり手前での幕営であり、このような経験は初めてだったのでとまどいがあったが、それよりも冷たくなった足のつま先を温めたい思いでいっぱいだ。テントに入るころは空全体が雲におおわれ、気温が8度であったが寒く感じる。テントの中は疲労で口数も少なく、ひたすら夕食のスパゲティがゆで上がるのを待つ。満腹になると元気も回復し
、大きな声で歌ったりして楽しむ。遅れを取り戻すために、明日は6時の出発を確認して、眠りにつく。

3月31日(火)
 最終日の朝、午前3時起床。朝食はハンバーグ。朝からハンバーグなんてめったに食べないが、山ではこれがおいしい。
 パッキング、テント撤収、準備運動を済ませ、6時10分に出発。気温2度。すぐに土のがけを登ることになり、先生がザイルを大木に巻き付けて確保し、それを頼りに登る。女子部員にはきついだろうということで、登り切った男子が再び下に降りて女子のザックを背負って、全員が登り切る。ときどき左側に岩館の海岸が見えるようになり、最終目標の大鉢流山が近いことがわかる。
 秋田県側は杉林、青森県側はブナ林が続く。どんどん雪は少なくなり、やぶこぎが多くなる。場所によっては身長よりも高いササやぶをかき分けながら歩かなくてはいけないところもあり、苦しめられる。大鉢流山への150mの登りは30分ほどで登る。
 12時、山頂到着。とてつもない達成感を感じる。白神岳から今まで歩いてきた稜線が一望できる。こんなに歩いたとは。誰もが口々にそう話している。山頂付近はブナ、ナラがほとんどで、チシマザサが密生している。三角点は雪の下で見つけることができない。下りはどこもやぶなので、県境通りに下ることにする。腰ぐらいのササをかき分けて一気に下る。正面に日本海がどんどん近づいてくる。トゲのあるやぶに悩ませられながら、2時39分、国道に下り立つ。
                                    3年 金平勝利 記 

   
白神岳山頂にて  大鉢流山の下り・日本海をバックに 

     
977m標高点に幕営  白神岳山頂は目の前  ザイルワーク、ピッケルワーク 
     
 白神岳をバックに記念撮影 出発前に準備運動  ブナ林の中を進む 
     
ブナ林  海に沈む夕日  ササのやぶ 
     
少ない雪の上を進む  やっと見えた大鉢流山  大鉢流山からの日本海 


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  高校生による白神山地縦走の記録   
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