高校生による白神山地縦走の記録



八森~泊岳~焼山~長場内岳~素波里 
平成2年3月27日~31日 四泊五日 
 県北高校登山部

   
          長場内岳への稜線     関根氏撮影           岩木山(奥)と小岳(右)     関根氏撮影



※平成2年6月2日付 北羽新報掲載より

白神山地を行く 
=春山合宿の記録から= 



 



 ~はじめに~

 私たち県北高校登山部は、春山合宿に八森から泊岳、焼山、長場内岳を通り素波里までの縦走を計画、3月27日から31日までの四泊五日で踏破することができました。参加校は、能代工業高校(8名)、能代北高校(3人)、能代商業高校(2人)、鷹巣農林高校(8人)です。初日こそ雨に降られましたが、山行期間中好天に恵まれ、白神山地の自然を満喫することができました。このコースは一部(泊岳1038m)を除いてほとんどが900mぐらいの比較的低いのですが、稜線はやせ尾根で通行に苦労する箇所がたくさんありました。また、湿った雪に足が埋まり、歩くのが大変でした。白神山地の山々はとても雄大であり、山肌を覆うブナ原生林のスケールの大きいのには驚かされました。特に、夕日に映えるブナ林の美しさは忘れられません。時折、カモシカも姿を見せてくれました。焼山から見た能代、二ツ井、鷹巣の夜景も印象に残ったもののひとつです。今、能代から白神山地を眺めると、私たちのたどった稜線をはっきりと確認することができます。苦しい山行でしたが、私たちに取って忘れられない大きな思い出になりました。これは、その春山合宿の記録です。 


~行動記録~ 

3月27日(火)
 朝早くから学校に集まり、出発の準備をする。9時30分、準備も終わり能代駅に向かう。天気晴れ。気温が高く、もう背中が汗ばんできた。
 10時16分の列車に乗り込む。能代北高と鷹巣農林高と合流する。正面にはこれから目指す真っ白な白神山地が見える。八森駅で10分ぐらい準備をして、11時いよいよ出発。国道を横切り、真瀬林道に入る。気温がどんどん上がっていく。山スキーを持っているので余計疲れる。アスファルトから砂利道に入る。雪が溶けて道はどろどろになっている。泥がはねて靴が汚れる。
 青秋林道に雪が 
 12時、三十釜を過ぎたところで昼食にする。しばらく行くと、前夜降った雪が部分的に残っている。ひどい所は凍って滑る。1時45分、青秋林道に入る。気温は少し下がったが、まだ暑い。秋木のゲートまでは除雪してあるが、それ以後は林道に数十cmの雪が残っている。岩が崩れて林道に散乱しているところもある。一ノ又の分岐で水を補給する。メンバーの二人が山スキーで登ることになった。初めての山スキーで慣れないこともあり、手間取っていたがしだいにうまくなっていく。振り向くと真っ白な真瀬岳が見える。
 後続の能商と合流
 3時10分、標高270m付近の水が流れている沢に着く。今日はここの林道上に幕営する。雪を踏み固め、テントを張る。4時の気象通報をきいて天気図を書く。6時ごろ、遅れて能代を出発した能代商業高が合流した。今日の夕食はホルモン焼きである。多めに買ったつもりであったが、数分でたいらげてしまった。7時30分、後片付けも終わりくつろぐ。みんな疲れている。雨がテントにあたる音がする。9時15分明日の天気を心配しながら、シュラフを出し、明日に備える。

3月28日(水)
 重い背中のザック
 4時起床。気温マイナス2度、天気くもり。テントの中はとても寒い。登山靴ががっちりと凍っている。その靴を我慢して履き、朝食の準備をする。カツカレーはとてもおいしく、体が温まる。7時40分出発。雪が固いうちに距離を稼ごうと思ったが、雪の融けるのが早くラッセルがきつくなり、背中のザックがとても重く感じる。
 あっカモシカだ!
 9時、670m付近で休憩、行動食や水を摂る。ここからは積雪が多い上にますます軟らかいので、トップを順番に交代して距離を稼ぐ。標高700m付近で青秋林道からはずれ、二ツ森と泊岳をむすぶ稜線に一気に直登する。標高差170mの登りである。木の枝がザックのベルトなどにひっかかり登りにくい。やっとの思いで稜線にたどり着いたら霧が晴れて少しずつ視界がよくなってきた。二ツ森、粕毛川、藤里駒ヶ岳などが美しく見える。ここで昼食にする。食パンにレタスとハムをはさみ、ドレッシングをかけて食べる。雄大な自然の中での昼食はとてもおいしい。沢の向こうにカモシカが二頭いる。私たちの方を見ているが、逃げるようなこともなく、ゆっくりと歩いている。周りには、いろいろな動物の足跡がいっぱいある。粕毛川で雪崩がおき、白い雪が茶色になって崩れていくのには驚かされた。
 1時30分、泊岳に向かって出発。稜線から粕毛川に雪庇が大きく張り出している。雪庇を踏み出さないように注意して進む。天気があがり、暑い。
 頂上は視界ゼロ 
 3時15分、頂上に着いたら霧がかかり、周囲は全く見えない。気温も下がって寒く、さっきの好天が嘘のようである。何とか頂上からの眺望を楽しみたいとしばらく待ったが、霧は晴れそうにない。あきらめて今日予定している幕営地に向かう。一気に100m下るが、雪が軟らかくワカンが埋まり、何回も転倒する。
 4時50分、ようやく932mの幕営地に着く。ここは八森、藤里、鰺ヶ沢三町の境界にあたる。テントを張り、雪を溶かして水を作る。今日の夕食はベーコンスープ。みんなが腹をすかしているので、たくさん食べた。疲れているので9時には眠る。

3月29日(木)
 能代が見えるゾ!
 4時起床。テントの中はとても寒い。外は晴れていて風が気持ちよい。泊岳が朝日に照らされ輝いて美しい。その右側に岩木山が見える。水沢山の向こうに能代が見える。今日は焼山まで行く計画である。本当に今日中に行けるのか不安だ。朝食に鶏めしとハンバーグを食べ、テントを撤収し、パッキングをする。
 8時出発。ブナ林の中、焼山をめざす。左側には日本一といわれるブナ原生林が広がっている。右側の水沢川方面は造林杉がうっそうとしている。ブナの白い肌と杉の黒が対照的である。雪が固く歩きやすい。快調にピークをひとつふたつと越えていく。
 素晴らしい白神岳
 9時45分、733mのピークで休む。ここからは登りもきつくなり、木の枝がじゃまして歩きにくい。南側斜面はワカンを着けていてもヒザまで埋まる。そろそろバテている人も出てきている。919m三角点への登りは200mである。暑さと雪の重さに耐えながら必死に登る。先に着いた山スキー隊が声をかけて激励してくれる。最後の力をふりしぼって11時30分やっと三角点に着く。各自昼食をとる。紅茶がとてもおいしく疲れがとれる。ここからの白神岳、向白神岳の眺めが素晴らしい。粕毛川を隔てて急峻な雁森岳が圧倒する迫力をもっている。これから向かう次郎左衛門岳の西側斜面のブナがわずかに茶色っぽく見える。つぼみがふくらんでいるのだろう。1時間ぐらいしてから、また歩き始める。登り下りを繰り返すうちに焼山が近づいてきた。次郎左衛門岳の山頂はドーム型で広くなっている。風が冷たく、気持ちがよい。先生から黒糖パンをもらって食べる。甘くておいしい。いよいよ焼山への150mの登りに入る。みんな疲れているので、思ったように標高を稼ぐことができない。あえぎながら必死で登る。トップとラストがかなり離れてしまった。
 寒いが美しい夜景
 4時40分、焼山山頂に到着。風が強く寒い。能代、二ツ井、鷹巣がよく見える。少し下ったピークにテントを張ることにする。風が強くて、なかなかうまく張れない。気温がどんどん下がっている。風邪をひかないように急いでテントの中にもぐりこむ。シチューを食べる。夜景がとてもきれいだ。星が満天に輝いている。水を作り、9時30分シュラフに入る。風でフライシートがうるさいが、疲れもあり、すぐ眠る。2時頃目がさめる。寒くてほとんど眠れない。

3月30日(金) 
 長場内岳めざして 
 4時、いつものようにシュラフから出て、バーナーに火をつける。気温マイナス5度。風はやんでいるが、非常に寒い。きのう作った水に氷が張っている。シュラフを片付け、ご飯を炊く。今日の朝食はレトルト食品である。
 7時40分、快晴の中を出発。今日中に素波里まで行こうとみんな張り切っている。ここからしばらくは能代を右に見ての行動で快適である。雪も固く足が埋まらず歩きやすい。随所にやせ尾根があるが、危険なことはない。かなりハイペースである。長場内岳はすぐ近くに見えるが、そこに通じる尾根は大きく右に巻いていてかなりの距離がある。次第に温度も上がり、雪も重くなる。長場内岳が近くなると木の枝が多く、顔にはね返ってくる。長場内川のかなり上流まで林道が入っている。長場内岳の登りにさしかかるころには、みんか疲れている。150mの登りはさすがにきつい。足ががたがたになりながら、息を切らして頑張る。雪の下に夏道のようなものが見える。
 やせ尾根に苦労 
11時5分、長場内岳到着。快晴で周囲の山が遠くまで見渡せる。遠くの森吉山、太平山、八甲田山などが見える。鳥海山が見えないのが残念である。昼食にラーメンを食べる。とても暖かく、上半身裸になっている先生もいる。食事が終わって全員で記念撮影をする。ここからの下りは左右切れ落ちている箇所が多く緊張する。雪もいよいよ軟らかくなり、ヒザまで完全に埋まる。やせ尾根を過ぎて、獅子鼻岳へ通じる小さな尾根をさがす。地図を見て現在地と方角を慎重に確認して進む。ようやく尾根を見つけ、下る。ここは急な下りで雪が消えている。ワカンをはずし、後ろ向きになって約100m下る。やっとの思いで鞍部にたどり着き、今度は獅子鼻岳の登りになる。獅子鼻岳の山頂には登らないで、右にトラバースして下山予定の尾根に取り付く。徐々に雪が少なくなり、標高600mぐらいになると全くない。今度は枯れ葉の上を歩くことになる。標高400m付近で杉渕沢に入る。沢の水は冷たくきれいで、久しぶりのうまい水にみんな生き返ったようだ。これから地図上にあるルートに従って下る。周囲はだいぶ暗くなってきている。杉渕沢の林道にあと数十mのところで歩道が消えて通行が不可能になっている。みんながっかりしながら引き返し、沢沿いの広い所にテントを張る。10時30分シュラフに入る。長い1日が終わり、眠る。

3月31日(土)
 下りは歩きやすく
5時起床。快晴で周りの杉の香りがして気持ちよい朝だ。
 ラーメンを食べて7時40分出発。沢沿いのコースが通行不可能なので、右側の尾根に直登して尾根を下ることにする。約200mの急な登りである。先頭を行く先生の作った足場をしっかり踏みしめながら慎重に登る。途中でザイルを使って登ったりもする。途中からしっかりとした枝が多く、枝に頼って一気に登っていく。杉林に入るとやぶになり、木や枝が邪魔で歩きにくい。尾根上に歩道があり、ここからは歩きやすく順調に下っていく。しばらくして、採石場の上に出る。ここからは素波里湖や巻端家、熊ノ岱の集落が見える。みんなの表情がようやくやわらいできた。杉林をぬけ、舗装道路に出る。ここからは歩くペースも速くなり、無言である。
 12時2分、巻端家バス停に着く。みんな道路に座り込んでいるが、表情は明るい。顔は日焼けで真っ黒である。バスに乗って二ツ井に着く。各自、心配している家族に電話をしている。やっと家に帰れるのがうれしい。

                          能代工業高校3年 熊谷孝・木村崇 記 

   
ブナ林の中を行く  長場内岳山頂にて 

     
ブナ林を行く  出発前 今日も快晴  めざす焼山をながめる 
     
 二ツ森をバックに記念撮影 ブナ原生林  次郎左衛門岳のブナ林 




  高校生による白神山地縦走の記録   
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