高校生による白神山地縦走の記録

黒崎~白神岳~真瀬岳~八森 
平成元年3月21日~24日(三泊四日) 
 能代工業高校山岳部


   
白神岳山頂避難小屋  ブナ林の中を行く 



※平成元年4月8日付 北羽新報掲載より

銀雪の春を行く 
=白神岳~真瀬岳縦走の記録= 


 

 ~はじめに~
  私たち能代工業高校山岳部は、春山合宿に白神岳から真瀬岳までの縦走を計画、3月21日から24日までの三泊四日で踏破することができました。
 このコースは標高が白神岳周辺で1000mを越えるものの、それ以外は800mから900mで比較的低いのですが、距離が非常に長く、腐った雪で足が埋まり、またほとんどブナ林の中ということで、視界が悪くコースを見つけるのに苦労しました。
 しかし、日本一といわれるブナ林は私たちに多様な素顔を見せてくれ、またクマゲラの採餌痕(さいじこん)を発見したり、カモシカに出会ったりもしました。
 今は、白神岳から真瀬岳まで歩き切ったという満足感でいっぱいであり、大いなる自然に触れた今回の山行は忘れられない大きな思い出になりました。これは、その春山合宿の記録です。
 

 ~行動記録~

3月21日
 能代駅に集合、7時59分の列車に乗り込む。曇り、気温8度、車窓から見えるめざす白神山地は上半分が雲に隠れている。岩館で乗り換えし、9時27分黒崎駅に着く。
 すぐに白神岳登山口の日野林道入口に向かう。ガソリンスタンドで水を補給し、9時40分いよいよ出発。相変わらずの曇り空であるが、真っ白な白神岳山頂がはるかに望める。
 気温は14度と少し暑くなった。林道には全く雪がないので快調に歩くが、20kg近いザックが肩に食い込み痛い。
 10時25分林道終点に着く。ここから少しずつ登山道に雪が積もっている。泥で滑り、歩きにくい。11時45分マテ山への冬道の分岐に着く。ここで持参したおにぎりで昼食をとる。
 今日中になんとか山頂避難小屋にだどり着きたいということで、15分ぐらい休んでロングスパッツを着け、出発する。二股コースとの分岐点を過ぎると30cmぐらいの雪が積もっているので、ワカンを着ける。気温が5度下がり、粉雪が降ってきた。
 登山道には他のパーティの踏み跡があり、迷うことはない。1時45分、630m付近より夏道からはずれ、尾根の右側を斜めに登る。しばらくすると、踏み跡は尾根に向かって直登している。標高差140mのかなりきつい登りで、四つんばいになって登る。
 その斜面の途中に他のパーティのテントを張った跡があった。なぜ、こんな急斜面の状況の悪いところにテントを張ったのか不思議に思いながら、尾根をめざす。あえぎながら2時10分ようやくマテ山に通じる尾根にたどり着く。
 気温0度、相変わらず粉雪が舞い、寒い。踏み跡を頼りに、ひたすら山頂をめざす。森林限界を越えたあたりから雪面が堅くなり、キックステップで登る。
 4時30分大峰分岐に出たが、粉雪まじりの東風が強く、ほおが痛い。4時50分避難小屋到着。ザックを置いて、山頂に向かう。5時、白神岳に着く。気温マイナス3度、吹雪、とにかく寒いので写真を撮ってすぐ避難小屋に戻る。
 避難小屋には三階北側の窓から入る。窓が完全に閉まらないため、小屋の中に雪が吹き込んでいる。この雪を掃き出すのに時間を費やす。小屋の中は冷蔵庫のように寒く、バーナーを焚いても一向に暖まらない。ベーコンスープとおにぎりで夕食をとり、雪を溶かして水をつくる。
 メンバーのひとりが風邪気味なのか、寒気がするということなので、早く寝ることにする。8時20分、明日の天気とメンバーの体調を気にしながら、シュラフにもぐりこむ。外は風が強い。

3月22日
 5時30分起床。小屋の中でマイナス6度、外はガスで視界が悪い。風邪気味であったメンバーは今日になって快調ということなので、予定通りの行動をとることに決まった。朝食にスパゲティミートソースを食べ、出発の準備にとりかかる。
 8時10分、気温マイナス1度、ガスの中を出発。白神岳山頂を越え、岩崎村と深浦町の境界の尾根をいく。1200mのピークから右に大間越へ通じる大きな尾根があり、そちらに迷いそうになるが、コンパスと地図を使って目的の尾根をめざす。ここから一気に450m下り、ブナ林の中に入る。
 ブナ林に入ると稜線の風がウソのように穏やかだ。雪が軟らかくワカンでもひざぐらいまで雪に埋まり、ハードなラッセルが苦しい。804mのピークを過ぎたあたりで、頭上にバタバタという音がする。見上げると、数十羽の白鳥が向白神岳方向に飛んでいく。しばらく見やってから、また歩き出す。ウサギ、カモシカなどの足跡が点々とある。
 899.6mの三角点手前で、ウサギの足跡と一緒に人間の足跡を見つけ驚く。マタギがウサギを追いかけて、この辺まで入ってきているのだろうか。899.6m三角点に12時10分到着。曇り空であるが、だいぶ視界がよくなってきた。気温も4度と上昇、雪が腐れ歩きにくい。思ったよりもペースが遅く焦り気味である。
 この辺のブナは直径80cmぐらいでさほど太いものは見あたらない。この三角点から二つ目のピーク840m付近で昼食をとる。また、小雪が降ってきた。気温も2度と下がってきて寒い。パンとジュースを食べ、20分ぐらいでまた歩き始める。
 霧がだいぶ晴れてきて、真瀬岳、摩須賀岳が雲の合間から見える。真瀬岳はまだはるか遠い。本当に真瀬岳まで行けるのか不安であるが、もう引き返せない。ここから津梅川越しに白神岳方向を見ると、東の方から玄関岳、白神岳、大間越に通じる1000m以上の稜線が180度に広がりすごい。そして、森林限界以下にはブナが網の目のようにはりめぐらされ、素晴らしい眺めである。
 2時10分、885mピークで一本(休憩)をとる。甘夏がうまい。疲れているが、4時まで頑張ろうと先生に励まされ、また歩き始める。4時6分、886.7mの三角点に到着。県境まであと水平距離で1kmぐらいである。今日はここに幕営する。
 津梅川の向こうに大間越の海が黄金色に輝いている。初めての雪上での幕営であり、先生から設営方法を教えてもらいながら、テントを張り終わるのに1時間ぐらいかかる。6時20分焼肉とご飯を食べる。多量の肉と野菜に、食べ終わると苦しく、疲れもあり眠い。外を見ると雪が降っており、風も出てきた。水をつくり、8時30分シュラフに入る。
 風でフライシートがうるさく、何回も目がさめる。そして、2時過ぎになると寒くて眠れない。

3月23日
 5時15分、テント内マイナス2度、外はマイナス6度で夜の風がうそのように穏やかだ。白神岳が朝日に照らされ輝いて美しい。朝食に鶏めしを食べ、残ったご飯は昼食用におにぎりにする。凍ってコチコチに固い冷たい登山靴を履き、テントを撤収し、パッキングをする。どんどん雲が空をおおい、小雪がちらついてきた。8時20分、気温4度、小雪の中を出発、県境をめざす。
 県境の861mのピークを左にトラバースして、県境の尾根に取り付く。この付近はブナの枯れ木が多く、ここを下った最初の鞍部付近でクマゲラの採餌痕を発見する。高さ3m、直径80cmぐらいの枯れ木に、最も大きいものは縦20cmぐらいの縦長の楕円形で、ノミで削ったような跡がある。そして、深さはこの木をつらぬいている。それより小さいものも数多く見られた。近くてクマゲラが私たちを見ているかもしれないなんて考えると楽しい。
 県境の複雑な尾根を迷わないよう気を付けながら東に向かう。雪面が昨日より固く歩きやすい。9時50分、今日一回目の一本(休憩)をとり、先生の持ってきた大福を食べる。下界ではほとんど食べないが、山で食べると本当においしい。
 雲が晴れて、二ツ森、青秋林道が見える。青秋林道が通っている部分だけが木が生えていない真っ白な雪原であり、朝日に輝いて他の山と趣が違っている。真瀬岳はまだ遠い。ピークを一つ、二つの越えていく。途中、能代の町が望めた。しばらく眺めた。
 850mのピークの東面のトラバースを試みるが、雪が軟らかく腰まで埋まり難渋する。尾根伝いに行くより、2倍の時間と体力を費やす。この付近のブナは白神岳周辺のそれより、枝の先端が茶色っぽい。気温の差によって、早くつぼみがふくらんでいるのだろうか。茶色のかたい殻をむくと、ブナの花を見ることができた。
 12時30分、昼食のおにぎりと先生の持ってきたイカの塩辛を食べる。気温が5度と上昇し、暑い。三ノ又沢の源流部は県境までブナが伐採され、わずかにカラマツが植えられているだけで、殺風景である。まるで、スキー場みたいであった。
 ここまでくると、真瀬岳もいよいよ近づき、大きく迫ってきた。786mのピークに向かう尾根上のブナはほとんどが枯れて今にも倒れそうである。周囲のブナが伐採されたためだろうか。
 気温が2度と下がり、小雪が降ってきた。ここから真瀬岳に通じる尾根はやせており、雪庇も南側に張り出している。尾根伝いにカモシカの足跡が、私たちを誘うようについている。雪庇を踏まないように注意して登る。
 4時、真瀬岳手前のピークに到着。予定は真瀬岳で雪洞泊であったが、雪が軟らかく量も少ないので、ここにテント泊することで、ほっとする。八森の町が見える。二回目のテント泊であり、今度は30分ぐらいで設営を終わる。
 6時15分、カレーライスを食べる。食欲は旺盛だ。外は雪もやみ、満月がきれいだ。昨晩寒かったので、今日は持ってきた衣類全て着込んで8時15分シュラフに入る。夜、雪が降る音に目がさめる。テントに雪が積もって内部が狭くなっている。寒くて眠れない。

3月24日
 5時起床。雪でテントがだいぶつぶされている。外は10cm以上の新雪が積もって、一面銀世界だ。霧が深く、すぐ目の前にあるはずの真瀬岳が全く見えない。朝食にハンバーグとご飯を食べるが、食欲がない。疲れのせいか、出発の準備に体が動かない。
 8時10分、気温マイナス2度、霧の中を出発、真瀬岳をめざす。10分ぐらいして、単独行の登山者に出会う。県外の人らしい。二ツ森から白神岳まで行くとのことである。単独行であることに驚かされた。真瀬岳への140mの急斜面を登る。固い雪面に10cmの新雪が積もり、その新雪が滑り落ち、登りにくい。四つんばいになってあえぎながら登る。
 9時、真瀬岳に立つ。気温マイナス1度。ついにやったという気分で最高だ。霧も晴れてきて、二ツ森、摩須賀岳などが見えるが、白神岳は雲の中である。私たちが歩いてきた峰々が雲の間からはるか遠くに見える。よく、ここまで来たものだ。感激に浸りながら、30分ぐらい頂上で費やし、9時30分下山する。
 しばらくは快調に下るが、800m付近から雑木林になり、雪に足が埋まり、なかなか下ることができない。時には腰まで埋まる。木の枝やササの葉がぶつかり、また天気が回復して暑くてたまらない。約2時間半かかって、やぶとの闘いからようやく脱出する。
 12時50分、真瀬林道到着。今まで足跡ばかりしか見ることができなかったカモシカにここでバッタリ出会った。しばらくにらめっこした後、カモシカは尾根を登って消えた。昼食のパンを食べる。天気晴れ、気温9度。白神山地に入って4日目で、ようやく好天に恵まれた。
 今日中に何とか帰りたいということで、1時10分には出発する。ここから12km以上の林道である。40cmぐらいの積雪があり、ひざぐらいまで足が埋まり、歩きにくい。1時間ぐらいすると林道に雪がなくなり、ワカンをぬぐ。歩きやすくどんどん距離を稼ぐ。数カ所土砂崩れがあったが、通行に支障はない。ほとんど何もいわず、ひたすら歩く。ザックの重さに肩がマヒしたのか全く痛くない。
 3時5分、青秋林道分岐に着く。予想以上に早い。これなら今日中に帰れそうだ。予定ではこの付近で釣りをするはずであったが、時間がなくてできないのが残念だ。数台の車が通りすぎ、私たちを珍しそうに見ていた。
 4時30分、ようやく視界が開け、八森の町並みが見えてきた。振り返ると、真瀬岳と昨夜泊まったピークが見える。
 何も言わなかったみんなの口が急に活発になった。「今回の計画はきつすぎた」「やればできるものだ」「部員が優秀だから踏破できたんだ」「いや、顧問の指導がよいからだ」こんな冗談を言い合っている内に5時20分八森駅に着く。
 食堂でラーメンを食べ、6時33分の東能代行きの列車に乗り込む。ようやく家に帰れる安堵感と疲れでみんな眠そうだ。

                                       3年 岩谷昭生 記

     
白神岳を目指す  白神岳山頂  ブナ林 
     
出発の準備  白神岳は雲の中  一瞬見えた向白神岳方面 
     
目指す真瀬岳  やっと着いた真瀬岳山頂  真瀬岳山頂にて 



  高校生による白神山地縦走の記録   
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